人間長生きをするといろいろな日に出会ふものである。 今度私が参議院議員に立侯補の決心をしたについては、 自分は自分なりの考へを持ってゐるのだけれど、まはりの人は驚いたり、 あきれたりしたらしい。賛成の人もあれば、絶対反対とひきとめて下すった方もある。 絶対反対の方方はまづ第一に私の名前に傷のつくことをおそれるといふのであった。
私の名前、……それは何だらうと考へた。二十数年こつこつと、いはゆる随筆と呼ばれるものを 書いてきた、この森田たまといふ名前は、真綿にくるんで床の間に据ゑておかねばならないほど 大切なものであらうか。清純なあなたを政界の泥沼に染ませたくないと云った人もある。 政界とはそれほど下劣なところなのか。それなればーそう自分の眼で見究めてみたい。 私は天使ではないから、清純といふ言葉はあてはまらない。

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