新刊紹介 一記者
◎修道院の秋 南部修太郎氏著 新進作家叢書の第二十二篇である。作者は新興の文壇に三田の一派を代表する作家で、豊潤端麗の作風を以て聞えて居る。「修道院の秋」を初めとして、「彼と毛蟲」「黒焦の人形」「S中尉のアワンチユウル」「蟀谷のきず跡」等の諸篇が収められて居る。去年十二月に本誌に掲載された「一兵卒と銃」の一篇によつて、諸氏は既に作者の筆に親みを有たれてゐる事と信ずるが、本篇に掲げられたものは、いづれも氏の代表作といふ可きもので、發表當時の文壇に謳はれた名作のみである。作者は、現下の文壇でも屈指のスタイリストで、その一字一句を苟くもせざる文章は、直にとつて以て範となす事が出來ると思ふ。而して、作者の氣稟から來た清高純潔の感味も亦一寸他に類の無いものである。(中判一五〇頁、定價四十八錢、新潮社)
「文章倶樂部」大正九年三月號掲載
修道院の秋へ戻る。