仙子と私

伊藤七司

【引用元】武田房子「水野仙子 理知の母親なる私の心」(ドメス出版)p.21。


彼女の生家が須賀川でも著しく旧式な家であり、それは本町内大通りにあったが、商家ではなく養蚕農家であったことを裏書きするものであった。仙子の家と私の家とは同じ本町にありすぐ近所であったが、彼女の家は彼女の出世作「暗い家」に描かれたように暗いぢめぢめしたところなので私はあの家を訪うことを好きでなかった。ことに彼女の父は私には苦手であった。仙子の家の桑畑は勝誓寺の西裏にありそこには十数本の桑の老木があった。私達はその桑の実を口のあたりが紫色に塗りつぶされる程食べるのであったが、いつも「何だこのワラシども」と呼びながら鎌を手に持って私達を追う彼女の父はとても恐ろしかった。彼氏の顔はどす黒かった。


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