「ゆき」 あとがき


雪は天から送られた手紙である。
世界的な雪の権威者、中谷宇吉郎博士は、雪の結晶の画の上に、 かならずさういふ賛をなさいました。つづいて、
一片の雪に千古の秘密がある。
と記されます。
十数年前、博士から雪の結晶の画をいただいた私は、 それを古代紫地の帯に染めました。この本の装幀につかつたのが、 その帯の写しです。
私の「ゆき」は天から送られた手紙でもなく、千古の秘密もない、 ごくありふれた身辺雑記にすぎませんが、冬きたりなば春遠からじ、 窓外にちらつく雪を眺めながら、頁をくつて頂けたら仕合せだとおもひます。
一九五六年十二月十九日

六十二回の誕生日に
たま記す


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