序にかへて
大正十三年の初夏から十五年の早春にかけて「令女界」と「若草」に寄せた隨筆感想に他の二三を加へて、私はこの書を編んでみた。何れも時により折にふれた私の貧しい心の跡を語るものであるが、その一一が發表された度ごとに、私は多くの若い人達からとりどりの反響を得て、心と心との温かな接觸に、親しい共鳴にひそかな歡びを感じさせられてゐた。が、時の推移とともに私の心も進み動き、移り變つて行く。今、この書を編むにあたつて、再讀して不滿にたへぬものもないではない。然し、それ等もこの世の小さき旅人である私が過ぎ行く道の上に殘した一歩一歩の足跡である。また捨て難い懷しさもないではない。そして、そこにもなほ若い人達の胸に與へる何物かがあるならば、それこそ私にとつてはこの上ない幸である。
大正十五年春
著者
或る冬の思ひ出(一三・一一・三〇)
處女作の思ひ出(一四・八・一九)
花と追憶(一三・八・一九)
早春(一四・一・八)
初夏の旅路から(一四・四・二一)
奈良郊外の初夏(一〇・五・二八)
夏四題(一四・六・二〇)
感傷的なる文藝(一三・九・一〇)
女性と文藝(一四・三・一五)
文藝の誘惑(一四・一〇・二六)
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