過ぎ行く日

寶文館
大正十五年七月二十日発行 定價金壹圓貳拾錢


序にかへて

 大正十三年の初夏から十五年の早春にかけて「令女界」と「若草」に寄せた隨筆感想に他の二三を加へて、私はこの書を編んでみた。何れも時により折にふれた私の貧しい心の跡を語るものであるが、その一一が發表された度ごとに、私は多くの若い人達からとりどりの反響を得て、心と心との温かな接觸に、親しい共鳴にひそかな歡びを感じさせられてゐた。が、時の推移とともに私の心も進み動き、移り變つて行く。今、この書を編むにあたつて、再讀して不滿にたへぬものもないではない。然し、それ等もこの世の小さき旅人である私が過ぎ行く道の上に殘した一歩一歩の足跡である。また捨て難い懷しさもないではない。そして、そこにもなほ若い人達の胸に與へる何物かがあるならば、それこそ私にとつてはこの上ない幸である。
大正十五年春

著者

目次
春の花の印象(一四・二・二)
夏の花の印象(一三・七・五)
秋の花の印象(一四・九・一〇)

或る冬の思ひ出(一三・一一・三〇)
處女作の思ひ出(一四・八・一九)
花と追憶(一三・八・一九)
早春(一四・一・八)
初夏の旅路から(一四・四・二一)
奈良郊外の初夏(一〇・五・二八)
夏四題(一四・六・二〇)

アカシヤの蔭
海峽の夜
盆踊
新緑の窓にて(一三・六・八)
新緑と雨と
孤獨
子供
修道院に就いて
若き友へ(一三・八・八)
若き日
若き婦人の讀物に就いて
音樂的教養
秋を思ふ(一三・九・三)
百日紅
トルストイに就いて
ベエトオヴエンの晩年
苦の人生
女性に開かれつつある扉
過ぎ行く日(一三・一〇・一〇)
新しき生活のために(一三・一・一六)
新しきもの
よりよき日常生活へ
性格と感情の複雜化
競走心の不幸
人間愛
小鳥の生活(一四・四・一)
小鳥の生活
三人の娘の死
二つの感想(一四・六・八)
新居に移りて
久野久子さんの死
或る日の有島武郎氏(一三・一一・一〇)
日記帳から(一三・一一・一〇)

感傷的なる文藝(一三・九・一〇)
女性と文藝(一四・三・一五)
文藝の誘惑(一四・一〇・二六)

文藝の誘惑
投書文藝に就いて
作家的成長
知識と體驗(一五・一・二三)


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