母と姉として今日漬け菜を洗つて居るところへうれしいおたよりが……
机の上にのせてゝくれるように小僧にいひつけて赤い手でぢやぶ/\やつて居ました。今日はあたゝかだつたのでさほどつめたくありませんでしたが それでも五把七把と洗つて居るうちに少し手がきかなくなつて来ました。隣りの倉の白壁に縄に通した干葉がカサ/\と風にゆらめき居る。もう漬けごろだと 母は軒に編んでさげた大根を見上げていひました。冬ですね、かうして春をまつのですよ。
尤も衛生験査があるためですが、毎日毎晩方々で煤はきの音がします。家でも昨日やりました。
春まつ用意――まだ十一月ですが、積らぬまでもゆきと名の付くものは二度ばかり降りました。岩代もこゝらは雪の少ない方ですが、会津の方は随分大雪がありますからね、だから岩越線には雪がこひが そこら/\に建つてゐてその度に車窓の人の顔がおぼろになります。
お風邪はどうなすつた? 無理はなさいますな、硝子戸に日影かあたゝからしくさしてゐても、開け放してはさすがに風がさむいでせう、お大切になさい、お大切になさい。
長碌寺の鐘が鳴ります。あれは九時になるのですよ 木枯がやゝつよく屋根の上を渡つて居ます。
南の国の弟にこの手紙がもちはこばれるまでに三日の日が費やされる、私はそれが長いと思ひます。こゝから東京へは大概まる一日で届きますからね。
今頃はなにしてゐらつしやるだらう? と思ふと、台ランプに後のくらいお部屋の壁に大きな五分刈の頭が動いて、机の人はちらとうしろを振りかへつたありさまが目に見えます。
おかげんがよくなつたら また長いお手紙を頂戴、蜜柑の香りをにほはせて。
向ひは八百やですがまだ蜜柑の箱がつまれたのは見ません まだ柿の世でせう。それも終りになつたけれど、五所柿の赤いのが景気よく見えますから。
焼芋のおいしい冬は来ました。
今日は妙にたべものゝ話が出ましたこと、ではこれで紙もつきましたから――。
十一月廿二日夜
貞
手紙(ハガキ、封書)のリストへ戻る。