秋とゆつていゝのか冬と云つていゝのか、兎に角お寒くなりましたことね、毎日学校通ひは大変ね、遠いのですか學校は。
お母さんが手紙を持つて来てくれたつてそのおつ母さんを相像(原文ママ)して見ました。かう髪の毛に少し白いのが見えるお年頃で、眼の小さいお色の白い、背はあまり高くなく、中肉のお声のやさしい――ね、どうでせう、違つて? 私の母はね、もう六十にはしが出て居るのですよ、ですからもう愚痴つぽくて困りますの、若いお母さんやお父さんをもつてなさる方は羨しいと思ひますよ。
今日は天長節でしたから二郎さんはどこかへお友達どして散歩にでもいらしたか知れない。私は毎日/\たゞ暮してゐるの、ほんとうに唯、いつか青果の卓上といふ小説に奥洲の子供は唯といふことをよくいふつてありましたが真とうよ、だから私も何をして暮して居るときかれたら、たアだ。これより外いひようがないんだもの。
二郎さんは幸福な境遇らしいのね、なんだかさう思はれるもの。男に生れたゞけも仕合せといはなければなりません、女なんてそれこそ/\つまりませんよ、何しても割が悪るいの。
商人の家に生れて、わけても女が小説なんぞ好いて、どうする積りなんだらう? とわれと己がをかしくなる時があります。でもまあ末の方に生れて幸ひでした。どうかしてやつて見たいと思ひます。それもまア漸く此頃さう思つたばかりなんですから、今まで何の修養もして居りません小学校を卒へたばかりでやつぱり平凡な商人の娘に仕立てられてたのですからね。
もう/\それを考へると折角思ひたつたこともいやになる時があります。あんまり何も知らないので恥かしくつてどこへも首を出すことが出来ません。
でもまアこつ/\とやつて見ませう、皆さまのやうに花々しくやることはとても出来ませんけれど。
くだらぬことをおしやべりしました。
二郎さん長い/\お手紙を頂だいなね、もつと長くかゝうと思つたのですけれど、今晩はくたぶれてますからこれで御免蒙りませう。乱筆ごめんなさい。 さよなら
十一月三日夜
貞
【注記】本文には以下のような変体仮名が使用されていますが、読みやすさを重視してかなに置き換えました。
こ(変体仮名 古)、が(変体仮名 可に濁点)、ど(変体仮名 登に濁点)、か(変体仮名 可)、た(変体仮名 多)、だ(変体仮名 堂に濁点)、す(変体仮名 春)、ま(変体仮名 満)
参考 人文学オープンデータ共同利用センター Unicode変体仮名一覧
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