封書(越知二郎宛)

【表面】松山市唐人町三、越知二郎様
【裏面】岩代にて 服部貞 十二月十九日


をかしな冬だこと、まるで春さきの雪に風が吹く、いましかけた足袋を膝の上に置いて、きせをとつた母が云ひましたつけ、ほんに此頃はよく毎日のやうに風が吹きます。
さら/\と懐かしい音がして雪が降つて来た、かと思つてゐるうちに、いつかそれが戸を蹴る風の響きに消されてしまつて、時折はら/\と凍つた土に花の形を撒いてゐる。
少し綿のやうなのが降つて来たから今度こそは積るかもしれない、なんて語り合つてゐるうちに、またそれが雨となり風と変る。
戸のがたつく音、妙な声を出してひいたりひかれたりする障子の破れ、暗い高窓のガラスを通して屋根をむしる(※手偏+劣)やうな音が聞こえたかと思ふとビユーと長く尾をひく電線のさけび、こんな時には行灯にかぢりついたが最後もう何するのもいやで/\ たゞいつまでもぼんやりしてゐます。友なつかしさに筆をとつても思ふやうに書けないで裂いてはかき 書いては裂きして居るうちに手がきかなくなる、鼻の先が冷たくなる。寒いと思ふと俄にぞつとして首をすくめます。
三四日前からあなたのところへ書かう/\と思つてました。けれどもなんだかそれが行き違ひになつて、嬉しいたよりがさきに着くやうな気がされたので、それからと思つて書かずに居ました そしたらほらやつぱり今朝――あたたかくつていいので御地の方は。
お妹さんはおいくつになりなすつたの、なんだかなつかしくなりました
そのあかるいお部屋に蕩けさうな炬燵に足を出して、私も交つて双六でもしたらどんなに面白いでせう。飽きたら薄団(ママ)の上にお盆をのせて、真っ赤な冷たい熟柿を食べて……――必とお妹さんは無邪気なことをいつて私のことを笑はせるに違いない――こんなことも思つて見ます。
サフラン酒なつかしく拝見しました。あかるい淋しいいゝお作だ、その評語よく当つてゐると思ひます。
お手紙に出てくる叔母さんでも小僧でもすべてみ―んななつかしく思はれます。そして遠い/\ところなのだけどもすぐに遊びにゆかれるやうな気がして……。
八百やの前にやすんでゐる荷馬車に、在方に出すのでせう、蜜柑の箱を重ねてゐます、薩摩の俵につけた小さい紙札がふら/\して居る。角の茶やの前には、何売りか、香具師が声高にシヤベつて居ます。
必と在の女人達が浅黄の頭巾をかぶつてその前に感心して見て居るのでせう。
もうすぐお正月ですね、また一つ年をとらなければならない。
お湯づけにあたゝまつた勢ひで書き出したらもう一時をすぎてしまつた。
今日は少し光りがあるやうな日です。風も静かになりました。
  十二月十九日午后 

てい


 二郎さん


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