封書(越知二郎宛)

【表面】松山市唐人町三丁目 越知二郎様
【裏面】岩代須賀川 服部貞子 一月廿六日投ズ


芝居のふれ太鼓が通る。トテ馬車が来る。午すぎて今一時と僅かばかり、氷柱五寸に日がさして、じわ/\とそこらの屋根はとけかけて居る。
でも此雪がすつかり解けてしまふまでには余程の日数を費すでせう。とけてしまはぬうちにまた綿のやうなのがぼつ/\降りて来るかもしれません。
御地の方にもわつかばかり降つたといつた時は 一尺近くも積もりました。
あれから少し寒さがゆるんではまた凍らぬものは火ばかりともいはれるやうにきびしく寒じて降りふらし、やう/\それがとけかけたと思へばまた飛んで来るといふ風に、この頃は白い斑らが消える時がないやうです。
御地の方はそんなにあたたかで夏になつたらどうするのでせう。その割ではないんでせうね。寒いのはどうかかうか凌げますが、私は夏はもう/\大きらひ、躯の置きどころがないやうになります。
旧臘といふ一年中の忙しい時も、きのふ二日の買初めが終つて今日はまことにひつそりとして居ます。
着替へた店の者の紺の鯉口がシヨツキリと折り目だつてゐるのも正月らしい、町家ではどうしても旧の正月にならなければゆつくりしません。

ここから秋田富山の
店々の娘はおかのとて
おかのがかあいや殺される
下きはちんちりめんの長襦袢
上きは白無垢着重ねて
銀の簪落しざし
蛇の目の傘つんとさし
てんとう見ればてんと様
拝むとしたらば 雲が出た
その雲何うも邪見でなけれども
吾身が邪見でおがまれぬ /\

鞠唄を今思ひ出しました。
お正月になると 赤ものゝついたのに着かへた嬉しさに、両方の袂にガチヤ/\するきしやごを抱へてよく家々の縁先に陣どつておはじきやらお手玉やらにくれるのも忘れた時代、あの頃のやうに長い/\一年はもう来ないものでせうか、お正月なんてそれは/\待ち遠いものでしたのにねえ――。
今の子供らはどんなことをして遊んでるのかしら。昔の鞠唄ももうきかれなくなつた。遊ぶことでも、歌ふことでも妙にハイカラがゝつたことばかりで、少しもかうなつかしさが味はゝれないやうです。
炬燵でフレンドを読んでゐた甥達が今度は庭に出て雪をくづして居る。随分きん/\する声だこと、たつべでもこしらふ積りなのでせう。
一月二十六日、あなたの誕生日ですね。
さらば/\ その一日を楽しくお暮しなさいまし。雪白き北の国に一人の姉は弟の身に幸あらんことをと祈つて居ります。
  一月廿四日 認む 


 二郎さま まゐる
  先日は絵はがきをありがたう なぜ書いては下さらなかつたの?


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