九月十八日 午后四時十分
白河で結つて来た髪を皆が可笑しいと笑ふので朝起き
ぬけに結ひ直しに行く。生憎の雨、人出はよほど違ふ
と思ふ。母に催促されて病院へゆく、少し痺れの方は
よし、薬の色変る、今度は少し飲みよさゝう
なり。その足にて停車場へ廻り、雪ちやん終ひに来ら
ず、高下駄を鳴らして帰る。宝来やにて文章世界を求
め来る、懐かし、なつかし、久しぶりにて
雑誌を手にす、たゞ頁をのみ繰る。晴れんとして晴れ
ず用意はとゝのへたれど客なし、中町より本町へかけ
て屋臺みる人続きたり、その間を洋傘の黒き、傘の赤
き、浮いて続いてところ/\にまたかたまる 二階
より見下せばいつまでも飽きず、屋臺はやがで隣りの
小間店の前にとまるべし、この二階は一番見どころな
り。踊り子に接してみたけれどしかるべき
手づるもなし。女の身の近よるすべしらずみす/\こ
の上もなき材料をそのまゝにして置くが残念なり、
髪よ、簪よ、かゝる折は呪はし。一生
を藝術に捧げて女といふ觀念を忘るゝ勇氣も持たず、
否持ちたれども今は失ひぬ。失ひしを悔む心と失ひし
を喜ぶ心とが相戰ふが今のわが心なり。屋臺は今管野
の前、遠目にのぞきみれば「鏡山」らし。
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