封書(越知二郎宛)

【表面】松山市北夷子町三六竹の花横丁 越知二郎様
【裏面】東京府下代々木一三三 田山うち 服部貞子


雨が降る。
こほろぎか頻りに鳴いてゐる。
「雨がふつて月が出てゐる」と誰やらのこゑ※。
戸をあけたらあの木犀の香りがぷんとするでせう八月十五夜のふけゆかうとしてゐる今思ふともなしに思ひでゝこの筆をとりました九月四日に脚氣の氣味にて一寸帰省しつひ先日廿五日に帰京いたしました。
御不沙汰のほどはおゆるしを。
その後おからだにはお変りもありませんか帰省する前一寸秦さんにお目にかゝりましたつけがその折も一寸あなたのことが話にのぼりました。
秋らしい氣のひい/゛\する夜ですこと。
もう今頃はおやすみなすつて居らつしやるでう(ママ) 何よりもお身をお大切になさいまし
一寸お伺ひまで あら/\
  九月廿九日夜 

貞子


 二郎さま

【注記】※[3]には変体仮名で「志耳」とあるが、それでは意味が通じないため[2]に従うが、漢字にはせず「こゑ」とした。
本文には以下のような変体仮名が使用されていますが、読みやすさを重視してかなに置き換えてあります。
に(変体仮名 耳)、す(変体仮名 春)、に(変体仮名 爾)、あ(変体仮名 阿)、け(変体仮名 介)、ま(変体仮名 滿)

参考 人文学オープンデータ共同利用センター Unicode変体仮名一覧


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