学資に添へて都の姉へ

女子文壇 六号 明治40(1907)年


この二三日の暖くなりましたこと、蠶が出そうな氣候
になりました。東京はさぞ暖かでせうね、も少し過ぎ
ると花も盛り、それに博覧會があるのでどんなにか賑
かになるでせう。家からは誰れも行かないことに決め
ました。でも若しかすると母樣が一郎を連れて行くや
うになるかも知れません。かもですよ、だから當にし
ないで待つてゐらつしやい。

父樣はゆうべ、夜汽車で宇都宮まで、四五日かゝるか
知れませんつて、それで私に是を送るやうにつて言ひ
つけて行きましたの。今月のは定額より少し多いでせ
う、これは母樣がそつと増して下すつたのです旅に居
れば何かと心細いものだからつて。だけどお前またリ
ボンを送れの何のつて言つて遣つてはいけないよ、だ
つて。いくら私だつてさう/\姉さんの懷をいぢめや
しませんわねぇ。
昨秋は油斷してゝ袷を催促されて手ん手古舞したから
今度はまごつかないやうにと思つて、きのふから縫ひ
初めました、縞柄は私のよりずつと派手なのよ母樣が、
これではいくらなんだつてあんまりだと仰言るから
私、いつか送つて戴いたあのお友達の寫眞を出して來
て、ホラ此通り皆派出なのですものつて言つたら、さ
うねつて默つてしまひましたの、だからそれにしまし
た、實際東京は派出なんですものね、田舎の人は驚い
てしまふわ。いくら飛んでも刎ねても綻びないやうに
しつかり縫つてあげませう、よその學校と違つて運動
ははげしく無いでせうけれども。これからはそろ/\
畑が面白くなつて來ます。私もちよい/\出て見る積
りよ、今も母樣について菜を取りに往つて、來たとこ。
那須山の煙りがよく見えましたつけ。
いくらお醫者の學校でも躰は何よりお大切に。
受取りは繪はがきで頂戴な。さやうなら。


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