先日は失礼な勝手な事ばかり申上げました。もしも何かお胸底を曇らせて去ったものがあったらどうぞ御免下さい。
今日はふと一寸と思ひ浮んだことがあるものですから、おひかけてこの手紙を書く事にしました。格別な用事でもございませんが、若し何か川浪とお話合ひの節は、どうかあの手紙の内容――お手紙を差上げました事も、そして彼の自由についてお願ひした事も言ってやっては置きましたが――私の立場としての内容は(それはあまりにセンチメンタルな書き方に過ぎたやうに今になって思ひます)どうか沈黙して頂きたいと存じます。さもないとあの人はきっと反対に私の為めに犠牲にならうと言ひ出すか、さもないとも徒らに煩悶させる事になりさうですから……
私達はあまりに神経過敏でせうか? 丁度虫けらの触り角のやうに、神経と神経でさぐり合ってるやうに思召されますか?あまりに不自然な関係のやうにお感じなさりはしませんか?
けれど、けれど、暫くだまってらして下さいまし。なんだか子供達のまゝ事を見てゐるやうな気がなさるかは知れませんが、吾々の運命に橋を渡して下さったお方として、静かにごらんになってゐて下さいまし。
伽噺三回ばかりのものを書いて見ました。若しこんなのでお役に立ったらたゝせて下さいまし、書きつけないものだから、六十行きつちりにするのは骨が折れますね、苦しくはないけれども。
あの少年少女小説じみたものではいけないのでせうか、そんなのも時にはいゝやうに思はれますが……
奥さまにはよろしく、乃生子ちゃんを毎度「子供の新聞」で拝見して居ります、めっきり大きくおなんなさいましたでせうね。
三月二十七日夜
てい
前田様
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