今日は春雨といふよりも五月雨に
近いやうな雨が降つて でなく
つてさへ薄暗い部屋がよけいにうす
暗くなつて居ります 世の中がどうなつたかも
知らないで毎日/\同じつまらない日をこヽに
送って居ります 歩く事さへ出来たら久しぶり
で故郷の春にも親しめるのですけれど
退院後また少し發熱してふせつて
ゐるものですから‥―でも
大した事にはならずにだん/\下つて
まゐりました 諦めてじつと堪へてるだけつらい
やうな氣もします 氣を揉んで泣きわめいたら
かへつてさつぱりしさうな氣もするけれどどんな
ものですかしら 豫定通りだと昨日は
もう上京してゐる筈なんですが
とう/\我儘をとほして〇〇はやめたさうで
ございますね いろ/\とお骨折を頂きました
あらためて御禮申上げます 何も彼も
體が丈夫でなくては叶ひません 平凡な
たとへだけれどほんとに鳥に翼がないやうなもの
ですね その傷ついた小鳥のさびしさをもつて
以前にもまして皆様の御健康を祈り上げます
東京へ帰つたつてまだこのからだではどう
しようもないんです けれど一度行つて見たい
と思つてからは何がなし帰つて見たいん
ですの 見かけは血色もよしそれに可なり
肥つて居りますよ 尤もこの體だから難物な
病氣にも堪へられたのかも知れませんけれど
毎度ながら奥様へはべつに御手紙をさし上げません
どうぞ宜しく御傳へ下さいませ さやうなら
四月二十八日
水野仙子
前田 晁様【注記】月日の記載しかありませんが、文面の内容から大正6年のものと考えました。
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