当日の白眉は橘令嬢の洋琴独奏なるか。曲名を逸したれど、後にきけばベエトオヴエンのソナタCヅルよりGに移り又Cに帰り、所々に妙趣抜粋して一曲と作したるものなりといふ。感籠り情豊かに器械的弾法の域を脱したるは同嬢の特色にして、先にフンメルが変ホ調ソナタの独奏に喝采を博してより茲に三年を経て、其妙技を示されたり。(上田敏)

「文学界」三一号、明治二八年七月掲載「西楽月旦」より

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