教授橘糸重女史のピアノ独奏にて曲はシューマンの楚々人を感動せしむる抒情的短調コンセルトなり。奏者は音楽家にして又歌人たる橘女史のことなれば優婉なる曲調と余韻嫋々たる女史の演奏と互に相助けて洵や天衣無縫の絶妙なる楽の音の漂ひの裡に万堂の聴衆を包み坐(そぞ)ろに人を夢幻境に導くの手腕凡ならずと云ふべし。

「中央新聞」明治44年5月29日

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